JRS会員の皆様へ
インド北部シッキム州 ツツジ ・ シャクナゲ視察報告
視 察 団 長 藤 原 勝 壽

 今回のインド北部シッキム州のツツジ・シャクナゲ視察は、当協会主催の海外視察としては
          「参加者の皆さん」
6回目になる。初回は1992年の中国四川省への日中合同植物調査であり、その報告は当協
会会報第20巻、創立20周年記念号、P2-68(1992)に詳しく掲載されている。
 当協会主催の最近のシリーズとしては、第2回目・中国雲南省のシャクナゲ視察(2005)、
3回目・ブータンのシャクナゲ視察(2006)、4回目・英国の植物園・チェルシーフラワーショウ・
ロスチャイルドブライベートガーデン等(2007)、5回目・米国北西部シャクナゲの原種財団の
原種財団やプライベートガーデン等(2008)を視察した。
 この報告では、6回インド・シッキム州のツツジ・シャクナゲ視察結果について報告する。
北シッキムは、ネパール、ブータン、西チベット、中国雲南省等の世界のシャクナゲの90%
以上が集積している地域の一つである。
【各写真をクリックすると拡大写真を見る事が出来ます。】

   インド・シッキム州の原種ツツジ・シャクナゲの分布は、図1に示すとおり、5つの群落がある。これらの群落には36種類の原種シャクナゲが確認

    されており、これらの原種シャクナゲの標高別分布は表1に示すとおりである。
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図1 シッキム地方のシャクナゲ地域別分布

表1 シッキム州のシャクナゲ標高別分布
   今回のシッキム・ツツジ・シャクナゲ視察の目的は、これら36種類の原種シャクナゲの自生地において、できるだけたくさん見学することであった。
  旅行社のBasan氏と現地案内人Tega氏の手持ち資料では36種類が観察可能とのことであったが、実際には自然交雑種も含めて39種類が観察された。
  ユムタン渓谷での滞在3日間で、これだけ見学できたのは現地案内人Tega氏がピンポイントで効率よく案内していただいたおかげと深く感謝している。
  特にTega氏は、ドイツのシャクナゲ専門家であるUlrich Pietzurka氏をユムタン渓谷に案内した折りに、自然交雑種R.decipience(R.hodgsonii×R.falcon
  eri)の新種発見にも貢献しており、分厚い資料を携帯して、現地での種の同定とその解説は専門家はだしであった。
  北シッキムのツツジ・シャクナゲに関する書籍は、Udai C. Pradhan「Sikkim-Himalayan Rhododendron」(1990)、プライベートレポートはDr. Ulrich Pietzu
  rka「Bestimmungsschlussel fur die Gattung Rhododendron in Sikkim」(2010)等がある。また、当協会の有志による北シッキムのシャクナゲ報告は、会報
  第36巻第2号P30、P34、P36(2007)に紹介されているのでご覧いただきたい。
    北シッキム地方のツツジ・シャクナゲは、東側のブータンと西側のネパール合わせて、地球上のツツジ・シャクナゲの発祥の地である。
小生も30年来、何時かは訪れてみたいと思っていたので、視察が実現した喜びは大きい。
  今回の視察概要は次のとおりである。
   (1)目的:インド、北シッキム地方ユムタン渓谷を訪ね、現地自生の原種ツツジ・シャクナゲを見学
   (2)期間:2012年4月28日(土)〜5月5日(土)の9日間、往路3日間・ユムタン渓谷視察3日間・復路3日間
   (3)主催:日本ツツジ・シャクナゲ協会(JRS)

   (4)視察日程:表2 日程表のとおり

   (5)参加者:8名  (敬称略)
     北から、守其子(宮城)、工藤紘一(東京)、浅見國雄、浅見智子(愛知)、志田行弘(三重)、井上修爾(大阪)、中西貢(大阪)、藤原勝壽(香川)の各氏
   (6)旅行社:鞄本橋トラベラーズクラブ
  表2 インド北シッキム旅行行程

    第一日目 4月28日(土)、往路移動日
  出発当日、参加者は成田空港第一ターミナル4階南ウイングIゾーン前に集合した。連休初日の午前中で出発ロビーは報道テレビカメラの列であった。
  夢にまで見たシッキムへ向けてシンガポール航空SQ637便は11:30に20分遅れで出発した。サービスの良いシンガポール航空機で、飲んだり食べたりし
  ているうちに、17:20にシンガポールのチャンギ国際空港に着いた。ここでインドのコルカタ行きSQ516便に乗り換えである。乗り換えロビーには珍しい野
  生ランが多数展示されていた。コルカタには22:35に着き、ここで現地旅行社のMr.Basant氏の出迎えを受ける。夜半に市街地にあるホテル「THECORP
  ORATEKOLKOTTA(コーポレート・コルカタ)」に向かった。何と驚いたことに市街地の歩道には、あちらこちらで多数の市民が上半身裸で寝ていたのであ
  る。「これからはインドだ」、「BRICSだ」等と言われていただけに、違和感を覚えた。

   第二日目 4月29日(日)、往路移動日

  翌29日(日)、コルカタからバグドラへ国内便で約1時間の飛行で到着し、バグドラから専用車でガントクまで約130Kmの移動である。途中、軍のチェックポ
  イントがあり、約5時間の行程であった。宿泊は、ホテル「NOR.-KHILL(ノルヒル)」で、シッキム王国時代の名門ホテルの格式を感じさせる高級ホテルで
  あった。

    第三日目 4月30日(月)、往路移動日・自然観察

  今日はガントク−ラチュン間の自然観察をしながら、ユムタン渓谷の入り口ラチュンをめざす。専用車ジープ3台に分乗して、由緒あるホテル・ノルヒルを
  8:10に出発した。バクチャフル雪山を遠望したり、カレー粉をつくる「カルダモン」の野生種を観察したりしながら高度を稼いでゆく。マンガンで昼食後、し
  ばらく行くと二つ目の軍の検問所があった。検問所を過ぎて暫く行くと、高度2,200m付近で民家庭植えのR.arboreum、高度2,250m付近で近で庭植えのR.
  falconeri等が見られるようになった。
  ラチュンに近づいたところで、現地案内人のTega氏をピックアップして、標高3,000mのホテル「YARLAM RESORT(ヤーラム・リゾト)」に到着したのは夕刻
  で、約8時間の行程であった。日本を出発してから三日目に漸く目的地ユムタン渓谷の入り口の村に到着したのである。

    第四日目 5月1日(火)、ユムタン渓谷のツツジ・シャクナゲ観察 標高3,200m付近まで

    第五日目 5月2日(水)、ユムタン渓谷のツツジ・シャクナゲ観察 標高3,600m付近まで

    第六日目 5月3日(木)、ユムタン渓谷のツツジ・シャクナゲ観察 標高4,200m付近まで
   ユムタン渓谷の3日間の詳細な報告は、他の団員の視察報告に委ねる。全行程で自然交雑種を含めてツツジ・シャクナゲ類を39種類観察することが
  でき、予想以上の成果となった。
写真1 ユムタン渓谷ユメサンドン
4,200m地点にて、背景のシャクナゲは、R.aeruginosum、R.anthopogon
写真2 R.anthopogon 標高4,200m地点 写真3 R.wightiiの前で、3,600m地点
 左側Mr.Tega、右側Mr.Basant

   第七日目 5月4日(金)、復路移動日・自然観察
   今日から三日間かけて帰途に就く。8:10ベースキャンプとしていたホテル・ヤーラムリゾートを発ち、自然観察をしながらガントクへ向かう。標高2,600m
  付近でR.triflorum、R. virgatum、標高2,300m付近でR.dalhousiae、標高2,000m付近でR.maddenii等が観察された。
  今回の視察で、現地案内人のTega氏の活躍は目覚ましかった。種の同定と種の特徴を明快に説明していただいた。標高2,000m付近で、走行中の車か
  ら崖の上のR.dalhousiaeを見つけた時などは神業といえる。ユムタン渓谷でのピンポイントの案内にも敬服した。3日間という短期間に39種類の見学がで
  きたのもTega氏のおかげといえる。Tega氏は今後も、世界のシャクナゲ専門家をユムタン渓谷に案内し、シャクナゲの観察に貢献するであろうと思われ
  る。途中、スムタンでTega氏の家に立ち寄り、奥様心づくしのバター茶の接待を受けた。ここでTega氏とのお別れである。
  昼頃、往路に立ち寄った軍のチェックポイントに再び立ち寄り許可を済ませ、ガントクのホテル「KEEPSA RESIDENCY(キープサ・レジデンシー)」に着いた
  のは17:20であった。夕食後、繁華街へダージリン・ティー等の土産物の買い出しに出かけた。

   第八日目 5月5日(土)、復路移動日
   帰途二日目は、ガントク−バグドラ−コルカタの行程である。ホテルを7:10に出発し、シッキム・ベンガル越境地点でパスポートのチェックを受け、バグ
 ドラ空港に到着したのは12:00であった。
 バグドラ(14:10)からコルカタ(15:15)に飛び、コルカタの市内観光の後、夜半過ぎにシンガポールへ向けて50分遅れでSQ517便の機上の人となった。

   第九日目 5月6日(日)、復路移動日
  7:10シンガポールの新装チャンギ国際空港に着いた後、トランスファーで乗り換え、SQ012で9:25にシンガポールを発ち、品質の良いサービスを受けてい
 るうちに17:30ほぼ定刻に成田空港に着いた。
  参加者全員、長年の夢が叶い、余韻に浸りながら現実の生活に戻った。


Fu-001 R.anthopogon Fu-002 R.arboreum Fu-003 R.barbatum Fu-004 R.campylocarpum

Fu-005 R.ciliatum Fu-006 R.cinnabarinum Fu-007 R.dalhousiae Fu-008 R.decipens (Hodgsonii
×Falconeri)

Fu-009 R.hodgisonii(2) Fu-010 R.hodgsonii(3) Fu-011 R.hodgsonii Fu-012 R.lepidotum

Fu-013 R.niveum(2) Fu-014 R.niveum Fu-015 R.campanulatum Fu-016 R.thomsonii

Fu-017 R.triflorum Fu-018 R.wightii(2) Fu-019 R.wightii Fu-020 Yume Samdang 4200m

Fu-021 Amongst_the_Whitii Fu-022 Picnic_Lunch_near_Cha_Chu
_02_May
Fu-023 R.aeruginosum3(campanulatum
_var._aeruginosum)
Fu-024 R.anthopogon(pink)

Fu-025 R.anthopogon10 Fu-026 R.arboreum_var_Campbelliae_1 Fu-027 R.barbatum Fu-028 R.camelliiflorum

Fu-029 R.campanulatum Fu-030 R.campanulatum_1 Fu-031 R.campylocarpum_1 Fu-032 R.cinnabarinum4

Fu-033 R.falconeri Fu-034 R.fulgens Fu-035 R.griffithianum Fu-036 R.hodgsonii_3

Fu-037 R.decipiens_2 Fu-038 R.glaucophyllum Fu-039 R.glaucophyllum_1 Fu-040 R.lanatum

Fu-041 R.lepidotum(white) Fu-042 R.lepidotum1 Fu-043 R.niveum Fu-044 R.pendulum_1

Fu-045 R.setosom2 Fu-046 R.sikkimense Fu-047 R.sikkimense_2 Fu-048 R.thomsonii

Fu-049 R.thomsonii_1 Fu-050 R.trifloram_2 Fu-051 R.vaccinioides_1 Fu-052 R.virgatum

Fu-053 R.wightii_2 Fu-054 Road_Block_Open Fu-055 United_Colors_of_Rhododendron